油脂
油脂とは,\(3\)価のアルコールであるグリセリンと長直鎖脂肪酸が縮合したトリエステルです.
「すきま」「うめます」の要領でグリセリンの\(\rm{OH}\)基が脂肪酸のカルボキシ基に攻撃して,トリエステルが生成されます.
常温で液体のものを脂肪油,固体のものを脂肪と呼び分けます.これについては後ほど詳しく解説します.
また長直鎖というのは,分子内の炭素数が\(14\)個以上で枝分かれしていない(直鎖)ということです.
長直鎖脂肪酸
油脂中に含まれる長直鎖脂肪酸は,すべて単結合のものを飽和脂肪酸,\(\rm{C=C}\)結合を\(1\)つ以上含むものを不飽和脂肪酸といいます.それぞれについてみていきましょう.
飽和脂肪酸
飽和脂肪酸の例としてステアリン酸を考えます.
炭素と水素からなる炭化水素鎖が伸びていて,末端にカルボキシ基がついていることがわかります.カルボキシ基から末端に向かって,\(1\)位,\(2\)位…というふうに数えていきます.
長直鎖と呼ばれる理由は,長い炭素鎖かつ分岐していないためです.この長い炭化水素鎖の影響で脂肪酸は強い疎水性を示します.
不飽和脂肪酸
\(\rm{C=C}\)結合を\(1\)つ以上含むものが不飽和脂肪酸です.ステアリン酸と同じ炭素数の脂肪酸がオレイン酸やリノール酸,リノレン酸です.
これらの物質は\(\rm{C=C}\)結合をもちますが,天然の不飽和脂肪酸はそのほとんどがシス型です.一方で,トランス型は人工的な反応によって生成されます.
受験では,ほとんどがシス型なので,不飽和脂肪酸=シス型の\(\rm{C=C}\)結合と覚えてくださいね!
この中で受験でおさえておいてほしいのは,\(\rm{C}\)数が\(15\)個と\(17\)個の長直鎖脂肪酸です.下に細かなデータを載せていますが,覚えておいてほしいものを厳選したので練習問題を解きながら少しずつ覚えていきましょう.
この図について補足説明しておきます!
- パルミチン酸のみ\(\rm{C}\)数が\(15\),それ以外の脂肪酸は\(\rm{C}\)数が\(17\)になります.
- \(\rm{C=C}\)の位置は,ステアリン酸が\(9\)位で,右に行くに従って,\(3\)コとびに\(\rm{C=C}\)があります.
- ステアリン酸の分子量が\(284\)を覚え,右に行くに従って,\(\rm{C=C}\)結合が増加する分,分子量が\(2\)ずつ減っていきます.
入試ポイント
入試のポイントとして,頻出の油脂の分子量と不斉炭素原子について解説していきます.
分子量
分子量を考えるときに,それぞれカウントしていては時間がかかりすぎてしまいます.
油脂(=グリセリン+長直鎖脂肪酸)を図のように分解してみましょう.
すると,油脂の分子量を四角の\(\rm{HCCH}\)の部分の原子量と脂肪酸の分子量の和として計算することができます.
油脂の分子量 \(=\) 脂肪酸の分子量の和 \(+\ 38\)
この式を覚えることで,瞬時に油脂の分子量を計算できるようになるので,必ず覚えてくださいね!
不斉炭素原子
不斉炭素原子についても知識をインプットしておきましょう.
\(3\)種類の異なる脂肪酸からなる油脂を考えます.このとき下の図のように\(3\)つの構造異性体が存在します.
一方で\(2\)種類の脂肪酸からなる油脂のときは,\(2\)つの構造異性体が存在します.
さらに右側の油脂については光学異性体も存在します.
\(2\)種類の脂肪酸からなる油脂の構造決定を行うときに,不斉炭素原子の有無によって構造を決定できる場合があります.このように知識で勝負できるところは,確実に知識をつけていきましょう!
油脂の性質・反応
油脂の融点の違いを学んだ後に,苦手としている方も多いヨウ素価を丁寧に解説していきます.
油脂の融点の違い
油脂の構成について復習です.油脂はグリセリンと長直鎖脂肪酸からなります.そのため油脂に融点の違いが生じるときは,この長直鎖脂肪酸によるものだと考えられます.
①不飽和脂肪酸が多い油脂
不飽和脂肪酸のもつ\(\rm{C=C}\)はシス型をしています.そのためそれぞれの脂肪酸同士でファンデルワールス力が働き,分子同士が接近しにくくなります.そのため分子内に\(\rm{C=C}\)の数が多いほど融点は低くなり,常温で液体になります.常温で液体の油は脂肪油と言われ,植物性に多いです.
②飽和脂肪酸が多い油脂
一方で,飽和脂肪酸が多い油脂の場合は,\(\rm{C=C}\)がないため分子同士が接近することで,融点が高く,常温で固体となります.このように常温で固体の油は脂肪といい,動物性に多いです.
また脂肪油(常温で液体)から脂肪(常温で固体)への変化も簡単に解説しておきます.\(\rm{C=C}\)に\(\rm{Ni}\)触媒下で\(\rm{H_2}\)を付加させ,常温で固体にしたものを硬化油といいます.例としてはマーガリンなどがあります.
最後にこれらの関係性を図にまとめておきます!
このような関係性を言葉で覚えるのはあまり効率的ではありません.図にして覚えることで,テストで聞かれなかった部分の復習にも役立ち,全体的に定着していきます.
ヨウ素価
ヨウ素価とは,油脂の不飽和度を推定するものです.
まずは原理を説明していきます.
不飽和脂肪酸を含んだ油脂には,\(\rm{C=C}\)結合が存在するので,そこへハロゲン分子は付加しやすくなります.このとき\(1\)つの油脂に\(n\)コの\(\rm{C=C}\)があれば,\(n\ \rm{[mol]}\)の\(\rm{I_2}\)が付加できます.よって,\(\rm{I_2}\)を付加することで,\(\rm{C=C}\)結合の個数(不飽和度)を推定できるというわけです.
では次に,計算式を解説していきましょう.
油脂\(\rm{100\ g}\)あたりに付加することのできる\(\rm{I_2\ [g]}\)をヨウ素化といいます.ここで,\(\rm{I_2}\)の分子量が\(254\)であることは覚えておいてくださいね!このように単位で覚えると,式は次のようになります.
油脂\(\rm{1\ mol}\)をもとに,油脂の分子量を\(M\),分子中の\(\rm{C=C}\)結合の数を\(n\)として計算式を考えてみましょう.
まずは分母から考えましょう.\(\rm{1\ mol}\)の油脂は分子量が\(M\)であれば,\(1 × M \rm{[g]}\)となります.
分子については,\(\rm{C=C}\)結合が\(n\)コあるとき,\(n\ \rm{[mol]}\)あるということになります.これに\(\rm{I_2}\)が\(1:1\)で付加するため,分子量\(254\)をかけます.
最後に,ヨウ素価は油脂\(\rm{100\ g}\)あたりの値であるため,全体に\(100\)をかけています.
この式から見るとわかるように,ヨウ素価は\(\rm{C=C}\)結合の数が多いほど大きくなります.
最後に練習問題を\(1\)つ解いておきましょう!
オレイン酸のみからなる油脂のヨウ素価は?
オレイン酸のみからなる油脂のヨウ素価を考えるためには,まず\(\rm{C=C}\)結合数の\(n\)と油脂の分子量\(M\)が必要になります.そこで以下の\(2\)ステップで考えていきます.
\(\rm{Step1:}\)油脂の分子量\(M\)を求める
\(\rm{Step2:}\)ヨウ素価を計算する
\(\rm{Step1}\)
オレイン酸の分子量は\(282\)です.そして,油脂の分子量は以下の式で求めることができましたね.
油脂の分子量 \(=\) 脂肪酸の分子量の和 \(+\ 38\)
\(M = 282 × 3 + 38 = 884\)
またオレイン酸には\(\rm{C=C}\)結合が\(1\)つあるので,トリエステルである油脂\(1\)分子には\(\rm{C=C}\)結合が\(3\)つあります.
イメージはこんな感じになります.
\(\rm{Step2}\)
ここまでくれば下のように計算することができます.
今回は油脂について詳しく解説してきました.ここで解説した内容を理解して,ぜひ自分のものにしてくださいね!わからない点があれば,お気軽にコメントください!
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