大問\(3\)の総評
こんにちは,\(\rm{KUT}\)です.
本記事では,\(2019\)年京大化学の大問\(3\)について解説していきます.
また解説に加えて,それぞれの問題で覚えておいてほしいポイントについて詳しく説明していきます.
京大の化学は難しいという印象が強い方が多いと思いますが,京大化学には難しい問題と標準問題の\(2\)つがあります.ここで,受験生が対策すべきことが\(2\)つあります.
\(1\)つ目は,標準問題を最後まで解き切る力を身につけることです.これにより,まずは平均点を取ることを目指します.
\(2\)つ目は,難しい問題と標準問題を見分けられる目を養うことです.試験本番は時間制限内に自分の解ける問題を解き切る必要があります.そのため,難しい問題は解かずに,標準問題をしっかりと選択していきながら,最後まで解いていくことが必要になります.
この記事では,問題を選択していく目を養うために,どのようにして判断していくのかということも自分なりに説明していきます.
それでは,\(2019\)年京大化学の大問\(3\)の解説に進んでいきましょう!
(\(\rm{a}\))は構造決定の問題で,京大化学で頻出の問題ですが,非等価な炭素原子を見抜くという若干考えにくい問題でした.
(\(\rm{b}\))はイミドという化合物をもとに部分加水分解と完全加水分解から構造決定するという問題でした.
どちらも短時間で合格点を取るためには,自分の解き方を確立しておく必要があります.今回はその方法をしっかりと解説していきます!
大問3
(\(\rm{a}\))
(\(\rm{a}\))は\(\rm{C_9H_{12}}\)の異性体をテーマにした非等価な炭素原子の種類を数えるという問題です.
まずは,「非等価な炭素原子の種類の数え方」について解説していきます.例として\(\rm{C_2H_6}\)を考えましょう.
ここで,\(\rm{C_a}\)と\(\rm{C_b}\)を比較すると共に同じ種類の結合をもっており,化学的な性質や反応性が等しいと考えられます.これを「等価な炭素原子」と呼びます.
この「等価な炭素原子」を一瞬で見分ける方法はないのでしょうか?
もちろん,ありますよ!
\(\rm{C_4H_{10}}\)の構造異性体でその方法を伝えていきます.
「等価な炭素原子」とは,炭素原子の環境が等しい,つまり「対称な炭素原子は環境が等しい!」ということです.すると,今回の\(\rm{C_4H_{10}}\)については以下のように数えることができます.
各物質について,対称になるように線を引き,片方のみの炭素原子について考えるということです.これによって対称な線を引いた反対側についても等価になると考えることができます.
このように対称な線を引くことで,今回の問題のように結合原子が多い場合にも短時間で見分けることができます.
「非等価な炭素原子の種類の数え方」を理解できたところで,本問を解いていきましょう.
問\(1 \cdot 2\)
分子式が\(\rm{C_9H_{12}}\)の芳香族化合物について,その構造異性体を考える問題です.構造異性体の問題は,できる限り書き出してリストアップすることが大切です.
今回の場合は構造異性体が\(8\)種類であることがわかっているので,置換基の数で場合分けしてそれらをリストアップしていきましょう.
これらの物質を先ほどの考え方をもとに,非等価な炭素原子の種類を数えていきましょう.
A
Aは\(3\)種類の非等価な炭素原子があるので,\(1,3,5\)-トリメチルベンゼンになります.
B・C
BとCには,\(6\)種類の非等価な炭素原子があることが問題文よりわかります.またCは空気酸化して分解すると,フェノールが生成されるので,クメンであることがわかります.すると,Bも決定することができますね!
また,クメン法で生成される副生成物は下の流れでアセトンであるとわかります.
この詳細については,以下の記事で丁寧に説明していますので,そちらもご覧ください!
D・E・I
DとEには,\(7\)種類の非等価な炭素原子があることが問題文よりわかります.ここで,少し整理しておきましょう.
- D → 安息香酸(\(\rm{C}\)数減少)
- E → I
\(\rm{KMnO_4}\)水溶液で反応させると,ベンゼン環に置換されているアルキル基が\(\rm{-COOH}\)基に置換されます.すると,D・E・Iがそれぞれ以下のように特定できます.注意点としては,D → 安息香酸に変化するとき,炭素数が減少するということです.
またIのテレフタル酸は,エチレングリコールとの縮合重合により,ペットボトルの原料となるポリエチレンテレフタラート(\(\rm{PET}\))が得られます.
補足ですが,これも「すきま」「うめます」の要領でエチレングリコールの\(\rm{OH}\)基がテレフタル酸の\(\rm{-COOH}\)基のすきまに攻撃して生成されます.「すきま」「うめます」の詳細については下の記事をご覧ください.
F・G・H
F・G・Hには,等価な炭素原子がないため,以下の3種類のいずれかになります.
ただ,今回はその詳細については問題に記載がないため,特定することはできません.
問\(3\)
Aに濃硝酸\(\rm{HNO_3}\)と濃硫酸\(\rm{H_2SO_4}\)の混合物(混酸)を反応させることでニトロ化されます.さらにスズ\(\rm{Sn}\)と濃塩酸\(\rm{HCl}\)を作用させると,ニトロ基(\(\rm{NO_2}\))がアミノ基(\(\rm{NH_2}\))へ還元されます.
ただし酸性の溶液中ではアミノ基は\(\rm{NH_3Cl}\)となっているので,強塩基で処理することで\(\rm{-NH_2}\)となります.
このニトロ化についても記事にしています.ニトロ化については確実に理解しておいてほしいので,ぜひご覧ください!
このニトロ化を今回の問題に当てはめて考えましょう.
Aをニトロ化したものがJであり,そのニトロ基をアミノ基に置換させたものがKとなります.
ここでのポイントは,「Jにニトロ基がいくつついているか?」ということです.
これを考えるには,非等価な炭素原子が\(3\)種類であることを考慮する必要があります.Jについて\(3\)種類を考えると,ニトロ基が\(3\)つついているJ3が非等価な炭素原子が\(3\)種類であることがわかります.
すると,一連の流れは以下のようになります.
問\(4\)
ここまでで心が折れて計算問題も難しいと思ってスルーした方もいるかもしれませんが,この問題はそこまで難しくはありませんよ!順を追って理解していきましょう.
問題の状況を整理すると,以下のようになります.
\(\rm{CO_2}\)の物質量で等式を作っていきましょう.Eの質量を\(x\ \rm{[g]}\)とすると.以下のようになります.
\(\large \frac{x}{120} \small × \large \frac{80.0}{100} \small × 8 = \large \frac{88.0}{44}\)
\(x = 37.5\ \rm{g}\)
(\(\rm{b}\))
(\(\rm{b}\))は,イミドの加水分解に関する問題です.ただ,「イミド」を知らなくても本問は一般的な加水分解の問題として考えていけば解答することができるできます.
今回の問題も完全加水分解と部分加水分解がありますので,この点にも注意しながら解いていきましょう!
問\(5\)
\(1\)つのイミド構造をもつLについて整理していきましょう.
上の図から,L → M + Nについては部分加水分解,N → M + Oについては完全加水分解であることがわかります.
まずはL → M + NからMの分子式を求めましょう.
Mはカルボキシ基をもつので,\(\rm{C_7H_6O_2=C_6H_5COOH}\)となり,これは安息香酸であることがわかります.
次に,Mが決定したことで,Oの分子式も求めることができます.
問題文にはさらし粉によって赤紫色に呈色したという内容が書かれています.さらし粉による呈色反応といえば,アニリンです!これは確実に覚えておきましょう!
問\(6\)
問\(5\)の各物質がわかれば,各物質を縮合させることでLが得られます.
問\(7\)
次に,\(1\)つのイミド構造をもつPの加水分解についてまとめていきます.
Pの部分加水分解をすると,\(p\)-メチル安息香酸,Q,S,Tの混合物が得られます.ここのポイントは「混合物」です.分子式を決定するときは,まず完全加水分解に注目してください.
Sを完全加水分解すると,\(p\)-メチル安息香酸とO(アニリン)になり,Tを完全加水分解すると,O(アニリン)とQが得られます.
これからPを完全加水分解すると,\(p\)-メチル安息香酸,O(アニリン),Qが得られると考えられます.
Qの分子式が\(\rm{C_9H_{10}O_2}\)とわかりました.次に,Qの条件をまとめてみましょう.
- ベンゼン環に直接カルボキシ基(-\(\rm{COOH}\))
- \(\rm{COOH}\)基のオルト位は\(\rm{H}\)原子
この条件に合うようにQの構造を決定していきます.\(\rm{C_9H_{10}O_2 = C_8H_9COOH}\)から\(\rm{COOH}\)の他に置換基は\(\rm{C_2H_4}\)であることがわかります.そして条件に合うように構造を数えると,以下の\(4\)種類が考えられます.
補足として,Pがどのような構造になっているのかを検討してみましょう.完全加水分解からSとTを決定することができます.ここでQについては,これ以上に決定することができないため,以下のようにR1を使って表していきます.
よって,Pは以下のように決定できます.
最後に
最後まで閲覧していただきありがとうございました.
本記事の内容についてわからない点があれば,遠慮なく質問していただければと思います.
(\(\rm{Twitter}\):chem_story1)
京都大学の化学は難問が多いと言われますが,その分多くのことを学ぶことができます.
皆さんの学習の一助になれば幸いです.
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