大問3の総評
こんにちは,KUTです.
本記事では,2020年京大化学の大問3について解説していきます.また解説に加えて,それぞれの問題で覚えておいてほしいポイントについて詳しく説明していきます.
京大の化学は難しいという印象が強い方が多いと思いますが,京大化学には難しい問題と標準問題の2つがあります.ここで,受験生が対策すべきことが2つあります.
1つ目は,標準問題を最後まで解き切る力を身につけることです.これにより,まずは平均点を取ることを目指します.
2つ目は,難しい問題と標準問題を見分けられる目を養うことです.試験本番は時間制限内に自分の解ける問題を解き切る必要があります.そのため,難しい問題は解かずに,標準問題をしっかりと選択していきながら,最後まで解いていくことが必要になります.
この記事では問題を選択していく目を養うために,どのようにして判断していくのかということも自分なりに説明していきます.
それでは2020年京大化学の大問3の解説に進んでいきましょう!
今回の有機化合物の構造決定は,複数のエステル結合をもつやや複雑な構造の化合物でした.部分的加水分解についても考慮する必要があるため,難易度が高かったです.このような問題に迅速に対応できるように,普段から炭素数や不飽和度,官能基,立体異性体の情報などからスピーディーに解く練習をしておきましょう!
それでは今日も頑張っていきましょう!
大問3
構造決定をするにあたり,どのように考えていくべきかをまとめておきましょう!
① 問題文の情報を流れ図に記す
流れ図中に情報を書き込むことで,情報モレをなくします!
② \(\rm{C}\)骨格に注目
アルコールの酸化・分子内脱水・アルケンへの付加反応などでは,\(\rm{C}\)(炭素)骨格は保存することに注意しましょう!
③ \(\rm{C}\)数に注目
エステル・アミドの加水分解・\(\rm{O_3}\)や\(\rm{KMnO_4}\)による酸化開裂反応などでは,分解前後の\(\rm{C}\)数は変化しません!
これらのことに注意して構造決定を進めていきましょう!
\(\rm{A}\)の分子式の決定
本問では,\(\rm{A}\)の分子式を求めるデータが与えられているため,まず化合物\(\rm{A}\)の分子式を決定していきましょう!
有機化合物の分子式の決定について下にまとめていますので,必ずできるようにしてくださいね!
\(\rm{C}\)の物質量 \(\rm{= CO_2}\)の物質量\(\ ×1 = \large \frac{w_{\rm{CO_2}}}{44} \small ×1\)
\(\rm{H}\)の物質量 \(\rm{= H_2O}\)の物質量\(\ ×2 = \large \frac{w_{\rm{H_2O}}}{18} \small ×2\)
\(\rm{O}\)の物質量については,求め方が\(2\)通りあります.
\(\rm{O}\)の物質量 \(= \large \frac{w_{\rm{all}}\ -\ w_{\rm{CO_2}}\ -\ w_{\rm{H_2O}}}{16}\)
\(\rm{O}\)の物質量 \(= \large \frac{m_{\rm{all}}\ -\ m_{\rm{CO_2}}\ -\ m_{\rm{H_2O}}}{16}\)
上の式における\(w\)は質量,\(m\)は分子量を表しています.
上の公式を使うと,\(\rm{A}\)の分子式を決定することができます.
\(\rm{C}\)の物質量 \(= \large \frac{836}{44}\ \small = 19\ \rm{mmol}\)
\(\rm{H}\)の物質量 \(= \large \frac{216}{18}\ \small × 2 = 24\ \rm{mmol}\)
\(\rm{O}\)の物質量 \(= \large \frac{348\ -\ (19\ ×\ 12\ +\ 24\ ×\ 1)}{16} \small = 6\ \rm{mmol}\)
以上から\(\rm{A}\)の分子式は\(\rm{C_{19}H_{24}O_6}\)となります.
ここで,不飽和度についても確認しておきましょう!
\(I\ =\ \large \frac{2\ ×\ 19\ +\ 2\ -\ 24}{2} \small = 8\)
よって,不飽和度は\(8\)になります.
有機化学を勉強する上で不飽和度\(I\)(\(\rm{Index\ of\ hydrogen\ deficiency}\))を知ることは非常に大切です.不飽和を求めることで,ある化合物の\(\rm{H}\)原子がどの程度不足しているか(=二重結合や三重結合,環状構造があるか?)を知ることができます.
\(I = \large \frac{\rm{2C\ +\ 2\ +\ N\ -\ H\ -\ X}}{2}\)
ここで,\(\rm{C}\):炭素数,\(\rm{N}\):窒素数,\(\rm{H}\):水素数,\(\rm{X}\):ハロゲン数です.
\(\rm{E,F,G,H}\)のデータ整理
今回の問題では,\(\rm{A}\)の加水分解により\(\rm{B}\)〜\(\rm{H}\)の化合物が生成していますが,それぞれ状況が異なります.
\(\rm{B,C,D}\)については部分的加水分解,\(\rm{E,F,G,H}\)については完全加水分解の生成物になります.そのため完全加水分解生成物から考えていくことが重要になります.
\(\rm{A\ →\ E\ +\ F\ +\ G\ +\ H}\)
\(\rm{A}\)から\(\rm{E,F,G,H}\)が分解されたため,エステル結合が最低\(3\)つ必要であるとわかります.エステル結合(\(\rm{-COO-}\))には\(\rm{O}\)原子が\(2\)つ含まれているため,エステル結合\(3\)つでは\(\rm{O}\)原子は\(6\)個であるとわかります.これは\(\rm{A}\)の分子式である\(\rm{C_{19}H_{24}O_6}\)の\(\rm{O}\)原子と一致しているため,エステル結合は\(3\)つであることがわかります.
これを踏まえて,\(\rm{E,F,G,H}\)のデータをみていきましょう.
\(\rm{E}\):分子式\(\rm{C_4H_4O_4}\)のジカルボン酸(\(\rm{-COOH × 2}\))
水への溶解度が小さい
\(\rm{F}\):データなし
\(\rm{G}\):\(\rm{-CH_3}\)を\(3\)つもつアルコール
分子式\(\rm{C_5H_{10}}\)のアルケンに水を付加して生成
\(\rm{H}\):分子量\(122\)
\(\rm{H}\)を酸化するとテレフタル酸
これらのデータをもとに\(\rm{E,F,G,H}\)の構造式を決定していきましょう!
\(\rm{E}\)
分子式\(\rm{C_4H_4O_4}\)を見たら,「マレイン酸 or フマル酸!」を疑いましょう!
この中で「水への溶解度が小さい」というデータがあります.これは教科書には載っていないため,その場で推定する必要があります.
水は極性溶媒なので,分子全体の極性が小さい方が溶けにくいと考えてよいです.トランス型のフマル酸は,\(2\)つの\(\rm{-COOH}\)が分子の中心に対して「正反対」であるため,分子全体で極性を打ち消しあっていると考えることができます.この点からフマル酸は無極性分子であると考えることができます.
よって,\(\rm{E}\)の構造は以下のようになります.
\(\rm{G}\)
\(\rm{F}\)はデータがないため,先に\(\rm{G}\)をみていきましょう!
\(\rm{G}\)は分子式\(\rm{C_5H_{10}}\)のアルケンに水を付加して生成されるため,\(\rm{G}\)の分子式は\(\rm{C_5H_{12}O}\)となります.この中でメチル基\(\rm{-CH_3}\)を\(3\)つもつアルコールを考えると,以下の\(3\)つになります.
この中で①の化合物についてアルコールを付加する前の物質を考えると,下のようになりこのような物質は存在しません.そのため①ではありません.
②と③について異なる点といえば,不斉炭素原子があるかどうかです.\(\rm{A}\)は不斉炭素原子が\(1\)つあるため,\(\rm{F}\)と\(\rm{H}\)に不斉炭素原子がなければ②,あれば③となります.
これを踏まえて,\(\rm{H}\)をみていきましょう!
\(\rm{H}\)
「\(\rm{H}\)を酸化するとテレフタル酸になる」というデータがあります.
ここで,酸化によって\(\rm{C}\)骨格は変化しないため,テレフタル酸から\(\rm{C}\)の骨格は次のようになると考えられます.
上の構造の式量を計算すると\(100\)となり,残りは\(22\)となります.\(\rm{H}\)は\(\rm{A}\)の加水分解で生じた物質であるため,\(\rm{-COOH\ or\ -OH}\)のいずれかを最低\(1\)つはもつことになります.この中で残りの式量が\(22\)であることを考慮すると,\(\rm{-OH}\)が可能であることがわかります.
以上より,\(\rm{H}\)の構造は以下のようになります.
\(\rm{F}\)
ここまでで,\(\rm{E,G,H}\)の分子式がわかっているため,\(\rm{F}\)の分子式も決定することができます.
\(\rm{A\ →\ E\ +\ F\ +\ G\ +\ H}\)
となるため,この加水分解には\(\rm{H_2O}\)分子が\(3\)つ関わっていることがわかります.これから\(\rm{F}\)の分子式は以下のようになります.
また\(\rm{F}\)の不飽和度は\(1\)になります.
\(I\ =\ \large \frac{2\ ×\ 2\ +\ 2\ -\ 4}{2} \small = 1\)
\(\rm{E,G,H}\)の\(\rm{-COOH}\)と\(\rm{-OH}\)の数から\(\rm{F}\)の\(\rm{-COOH}\)と\(\rm{-OH}\)の数を決定しましょう!
\(\rm{E:-COOH × 2}\)
\(\rm{G:-OH × 1}\)
\(\rm{H:-OH × 1}\)
から,\(\rm{-COOH}\)と\(\rm{-OH}\)を\(1\)つずつもつ必要があります.そのため\(\rm{F}\)の構造は以下のようになります.
また\(\rm{E,F,H}\)には不斉炭素原子がなかったため,\(\rm{G}\)が不斉炭素原子をもっているとわかり,\(\rm{G}\)の構造は以下のようになります.
\(\rm{B,C,D}\)のデータ整理
では,完全加水分解物質の\(\rm{E,F,G,H}\)の構造を決定できたため,次に不完全加水分解物質の\(\rm{B,C,D}\)の構造を決定していきましょう!まずはデータを整理していきます!
\(\rm{B}\):加水分解すると\(\rm{B\ →\ E\ +\ F}\)
\(\rm{C}\):組成式\(\rm{C_7H_{14}O_3}\)
\(\rm{D:-COOH}\)あり
組成式\(\rm{C_3H_3O}\)
\(\rm{B}\)
\(\rm{B\ →\ E\ +\ F}\)となるため,\(\rm{B}\)は\(\rm{E}\)と\(\rm{F}\)からなるエステルであることがわかります.エステル化については,いつも通り「すきま」「うめます」反応で考えましょう!
\(\rm{D}\)
先によりデータの多い\(\rm{D}\)から考えていきましょう!
\(\rm{D}\)の組成式は\(\rm{C_3H_3O}\)ですが,\(\rm{C,H,O}\)からなる分子の場合は,\(\rm{H}\)原子数は必ず偶数となります.これについては後述します.
これを考慮すると,分子式の候補は\(\rm{C_6H_6O_2,C_{12}H_{12}O_4,C_{18}H_{18}O_6}\)のいずれかになります.(\(\rm{A}\)の\(\rm{C}\)原子数が\(19\)のため,これ以上は不可です.)
\(\rm{D}\)は部分加水分解生成物であるため,エステル結合\(\rm{-COO-}\)が残っている上に,データから\(\rm{-COOH}\)があることがわかります.そのため\(\rm{O}\)原子は\(4\)以上となり,\(\rm{C_6H_6O_2}\)は不可となります.
また\(\rm{C_{18}H_{18}O_6}\)については,\(\rm{A}\)の\(\rm{C}\)原子数が\(19\)であり,\(\rm{E}\)〜\(\rm{H}\)に\(\rm{C}\)原子が\(1\)つの物質がないため,この分子式もありえません.
以上より,\(\rm{D}\)は\(\rm{C_{12}H_{12}O_4}\)であることがわかります.不飽和度は\(7\)です.
\(I = \large \frac{2\ ×\ 12\ +\ 2\ -\ 12}{2} \small = 7\)
\(\rm{E}\)〜\(\rm{H}\)の中から,\(\rm{C}\)原子数が\(12\)となるものを探しましょう!すると\(\rm{E}\)(\(\rm{C}\)数\(4\))と\(\rm{H}\)(\(\rm{C}\)数\(8\))であることがわかります.よって,\(\rm{D}\)の構造は下のようになります.
\(\rm{C \cdot H \cdot O}\)からなる物質の\(\rm{H}\)数について覚えておいていただきたいことが\(2\)点あります.
① \(\rm{H}\)数 \(\leq \rm{C}\) 数 \(\ ×\ 2\ +\ 2\)
これは\(\rm{H}\)原子の限界数を表す公式です.
まず,基本として\(\rm{C \cdot O}\)原子と結合できる\(\rm{H}\)原子数の関係は下のようになります.
これを踏まえた上で,\(\rm{H_2}\)分子の\(\rm{H-H}\)の結合中に,\(\rm{C \cdot O}\)を挿入し余った価標には\(\rm{H}\)を結合させると考えましょう.
すると,\(\rm{C}\)原子\(1\)つにつき\(\rm{H}\)は\(2\)個増加し,\(\rm{O}\)原子\(1\)つにつき\(\rm{H}\)は増加しないことがわかります.
このため\(\rm{H}\)の最高数は\(\rm{2\ ×\ C}\)と\(\rm{C}\)や\(\rm{O}\)原子を挿入する前に存在していた\(\rm{H}\)原子の\(2\)を加えた\(\rm{2\ ×\ C\ +\ 2}\)となります.
② \(\rm{C \cdot H \cdot O}\)からなる分子のH数は偶数
有機物の\(\rm{H}\)数は\(2\)個ずつ減少していきます.例として,下のようなペンタンを考えてみましょう.
隣り合う\(\rm{H}\)原子が\(2\)個取れ,\(\pi\)結合が生成されたと考えると,\(\rm{H}\)が\(2\)個減少しています.そして①より,\(\rm{H}\)の最大数は偶数であるため,\(\rm{H}\)が抜かれた物質についても偶数となります.
このポイントを理解して使いこなせるようになるだけで,解ける問題の幅が広がるため,ぜひマスターしてくださいね!
\(\rm{C}\)
\(\rm{C}\)の組成式は\(\rm{C_7H_{14}O_3}\)のため,分子式は\(\rm{(C_7H_{14}O_3)}\)\(_n\)となります.ここで\(\rm{H}\)原子数が\(\rm{A}\)の\(24\)より大きくなることはないため,\(n\ =\ 1\)となります.よって,\(\rm{C}\)の分子式は\(\rm{C_7H_{14}O_3}\)です.
\(\rm{E}\)〜\(\rm{H}\)の中から,\(\rm{C}\)原子数が\(7\)となるものを探しましょう!すると\(\rm{F}\)(\(\rm{C}\)数\(2\))と\(\rm{G}\)(\(\rm{C}\)数\(5\))であることがわかります.よって,\(\rm{C}\)の構造は下のようになります.
\(\rm{A}\)
最後に\(\rm{A}\)の構造は以下のようになります.
最後に
最後まで閲覧していただきありがとうございました.
今回の問題は加水分解がテーマでした.完全に加水分解された物質→部分的に加水分解された物質と考えることで,よりスピーディーに解くことができます.このことをおさえておくと同時に,\(\rm{C \cdot H \cdot O}\)からなる物質の\(\rm{H}\)数に関する知識についてもしっかりと理解し,使いこなせるようにしておきましょう!
本記事の内容についてわからない点があれば,遠慮なく質問していただければと思います.
(Twitter:chem_story1)
京都大学の化学は難問が多いと言われますが,その分多くのことを学ぶことができます.
皆さんの学習の一助になれば幸いです.
大問\(4\)についてはこちらをご覧ください!
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